2011年04月30日

残留放射能の「基準」はどのように運用されているか

 実は、決められた「基準」がどのように運用されるかという点も、基準そのものの決定にもまして重要である。その理由は、これから示すとおりである。

 3月17日に、厚生労働省は、「放射能汚染された食品」の残留放射線基準の「暫定的」引き上げを実施した。これが、それ以前の20倍とか200倍とか言われている「基準の変更」である。当面、今回はその点については深入りしない。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e.html
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

 この翌日(3/18)に、同じ厚生労働省から、上記の変更を受けて、野菜の放射線測定についての通達が出された。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015is5.pdf
 ここには、「野菜等の試料の前処理に際しては、付着している土、埃等に由来する検出を防ぐため、これらを洗浄除去し、検査に供すること。なお、土、埃等の洗浄除去作業においては、汚染防止の観点から流水で実施するなど十分注意すること」と書かれている。どの程度洗うかまでは示されていないが、これによる「除染」は、かなりの効果をあげたのではないか。各地で「基準値を下回った」と報道される一方で、「直売所の野菜から基準値を上回る放射線が検出された」というニュースが散見されるゆえんである。

 4月4日に、北茨城市で採取されたコウナゴから、1キロ当たり4080ベクレルの「放射性ヨウ素」が検出された。
http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/radioactive/news/20110405k0000m040133000c.html
 この件での問題点は2つある。まず、予想に反して「放射性ヨウ素」が検出されたこと、そして次に、4080ベクレルという高濃度であったこと、である。3月17日の「残留放射線基準の『暫定的』引き上げ」の文書(前掲)を見れば明らかなように、「放射性ヨウ素」の項に穀物、魚介は入っていなかった。半減期の比較的短いヨウ素を、魚介・穀物に適用することを想定していなかったためであろう。しかし、実際にはこれが検出されてしまったのである。
 そこで、厚生労働省は急遽、翌日(4/5)に、魚介類中の放射性ヨウ素に関する暫定規制値の取扱いについて、という通達を出した。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017z1u.html
 これは、巷間で「野菜の基準を魚介に適用するもの」と流布しているが、先述のように、「残留放射線基準の『暫定的』引き上げ」の文書に添付された表(3/17)の「放射性ヨウ素」の項に穀物、魚介が入っていなかったことによる。上記の表の「放射性ヨウ素」の欄に、「魚介類」が書き加えられただけである。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017z1u-att/2r98520000017z7d.pdf

 さらに、コウナゴの高レベル残留放射能のためであろうか、魚の放射線測定方法(ここでは、4/16神奈川新聞)も考慮されている。
http://news.nifty.com/cs/headline/detail/kanaloco-20110416-1104160012/1.htm
 大きな魚は、表面を予備測定した後、えらやうろこを洗浄。骨や内臓を取り除いた後ミンチ状にして測定機器にかける。もちろん、シラスやコウナゴではこういう方法は採れない。

 野菜は洗浄(除染?)して、魚は洗浄した上に、骨や内臓を取り除いてから測定するということがわかった。「実態に合わせた」とか、「食べる部分だけを調べるため」とか説明しているようである。洗わずに野菜を食べる人がいますか?ということなのであろうが、政府は国民に「野菜は、洗って食べること」を強制することができるものなのかどうか。また、魚の骨や内臓を好んで食べる人もいるかもしれないのである。洗い続ければ「除染」の程度をコントロールでき、調査サンプルと現実に市場に出回る商品との数値に乖離が出ることも考えられるし、現実にそうなっている。最大の問題は、放射線の蓄積されやすい部位を意図的に取り除いて測定しているのではないかという疑念を拭えないことである。

 大気中の放射線量のモニタリングにしても状況は同じである。通常、地表付近と、高さ1〜1.5m付近では、線量が10倍異なるといわれている(地表付近ではベータ線とガンマ線の双方が検出され、上方へ行くほどガンマ線しか検出されないためのようであるが、私自身はそのメカニズムをよく理解していない)。そのことは、自身で測定してみればすぐにわかることであろう。しかし、モニタリング・ポストの高さは場所によってまちまちである。これは、「条件」を統一しないで統計をとっているようなものである。何らかの数値の補正が必要であろう。

 異論が出るかもしれないが、私としては、高さ1〜1.5mのデータだけでなく、地表面のデータも併せて測定した上、併記してほしいと思う。小学校や保育園の校庭・園庭を想定すれば、地表に付着した放射線のチリも、子どもたちが走り回って巻き上げるであろう。転んですりむき、不幸にしてそこから体内に…ということもないではない。土いじりをして、手についた泥を口にすることもあるかもしれない。最悪の事態を想定しながらそれへの対応を考えるのが「危機管理」というものではないか。

 もちろん、この方法(地表面データも併記)だと広い範囲で年間20ミリ・シーベルトを超えるため、これを政府が実施するとは思えない。だから、各地での自主的・自発的な取組が貴重になってくる。私たちもカウンター(線量計)が入手できれば、ぜひデータを公表したいと思っている。
http://fukugenken.e-contents.biz/index
posted by あるじ at 18:27| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「線量限度」の政治性

 子どもも含む放射線の「線量限度」が年間20ミリ・シーベルトに設定されたことについて、その数値の是非が広く議論されている。この数値の是非については、専門家の議論に待つとして、ここではその基準がどのような状況において決定されていくか、その政治性を検討してみたい。とはいえ、ここで書くことは、おそらく多くの人がすでに「知っている」ことであり、「感じている」ことであるから、確認以上のものではない。また、基準がどのように運用されているかも重要な問題であるが、それはまた別の機会に考えたい。なお、現在は被曝許容量という言い方ではなく「限界値」であることを強調して「線量限度」と呼ぶことを、衆議院の文部科学委員会(27日午後)を見て知った。ちなみにこの委員会は、政府の対応を(その混乱ぶりも)よく伝えていて、興味深い。ぜひご覧になっていただきたい。

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php
(「4月27日」「文部科学行政の基本施策に関する件」で検索のこと)

  まず、政府が「20ミリ・シーベルト」の根拠にしているICRP(国際放射線防護委員会)のPublication109「緊急時被ばくの状況における公衆の防護のための助言」は、「委員会の2007年勧告の適用について助言するために作成」され、「2008年10月に委員会により承認」されたものである(ICRP Publ. 109 日本語版・JRIA暫定翻訳版による。なお、ICRPがどのような人たちの構成する組織であるかは、当面、ここでは言及しない)。

http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15290,76,1,html

 ということは、福島第一原発の事故の3年以上も前に勧告され、2年以上前に公表されていた文書だということである。しかし、今月になるまで、日本政府がこの数値を根拠として「年間20ミリ・シーベルト」を主張したことはなかった。つまり、現在の基準が妥当なら、事故以前から採用されていていいはずであるが、そうはされなかったというのが事実である。昨夜報じられた小佐古敏荘氏の内閣官房参与辞任会見の説明では、これが国内法への取り入れが行われていたことも明らかにされた。しかし、子どもも含む住民への「年間20ミリ・シーベルト」の線量限度はついぞ採用されることはなかった(当然だと私は思うが…)。

http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/80519.html

ともあれ、これが、今回の話の前提である。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 今年(2011年)4月4日、文部科学省は、3月23日正午から4月3日午前11時までの放射線量の積算値が、福島県浪江町(赤宇木)で10.34ミリ・シーベルトとなり、「屋内退避」の目安となる10ミリ・シーベルトを超えたと発表した。ここで重要なのは、この地点が福島第一原発から30キロの距離にあり、「避難区域に含まれていない」という点である。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110404/dst11040412240017-n1.htm

 4月5日に原子力安全委員会は、放射線量の高い地域の住民の年間被曝限度量について、現在の1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げるべきか検討を始めた。

http://www.asahi.com/national/update/0405/TKY201104050616.html?ref=rss

 これについて、枝野官房長官は4月6日午前の記者会見において「原子力安全委が避難の長期化を見据えて年間被曝限度量の引き上げを検討しているが、政府の指示か」との問いに、前段では「報道を拝見したが…」と他人事のように答え、後段では「どれぐらいが、たとえば退避をお願いする場合の基準になるのかということを検討しているという状況だ」と政府自らも検討しているかのようにも答えている。

http://www.asahi.com/politics/update/0406/TKY201104060223_02.html

 同日午後の会見では、のらりくらり答弁する枝野氏に、記者から「確認だが、年間被曝限度量は現行の1ミリシーベルトを20ミリまで引き上げるという話ではない、ということでいいのか」という詰めが入る。そに対し、枝野長官は「まず一つは、何も今決まっているわけではない」と逃げた上で、現況と問題の所在を語るにとどめ、問いに対して正面から答えていない。こういう対応は実にうまい。
 その後の「累積で20ミリシーベルトを超えた場合、避難地域を拡大する方向で検討しているということか」という問いに対しても、そういう数字は確かに出はているが「具体的な数字自体が固まっているわけではない」と強調している。むろん、浪江町の例に照らせば、10ミリ・シーベルト以下の数字で検討することはありえなかったであろうし、そもそも「避難地域になっていない場所の問題を、避難区域を拡大せずに対応する方法」を検討しているのであろうから、避難区域を拡大するはずはない。

http://www.asahi.com/politics/update/0406/TKY201104060551_02.html

 こうした経緯に照らせば、政府の指示かどうかはともかく、4月4日の文部科学省発表を受けて原子力安全委員会の検討がはじまったのは間違いない。
 避難区域外で高レベルの放射線が検出されたときに、2つの対策が考えられる。「避難区域を拡大する」という対策と、「年間被曝限度量を上げる」という対策とである。20ミリ・シーベルトの是非に人々の注目が集まっているが、重要なのは、前者を選択しなかったということである。つまり、住民の健康や安全を守るのではなく、「放射線を受忍せよ」というスタンスで対策がなされたのである。しかも、このときに「距離」から「線量」に何の説明もなくモノサシを変更していることには留意しておきたい。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 ここまでが、大まかな流れである。しかし、おそらく、避難区域外においても放射線量の高い地域があるという問題には、早い段階で政府も気づいていたはずである。
 たとえば、福島市では3月16日朝から、「通常の500倍」の相当する毎時200マイクロ・シーベルトの放射線が検出され、同日、水道からもヨウ素とセシウムが観測された。福島市は福島第一原発から約60キロの距離で、もちろん避難区域には指定されていない。
 文部科学省も3月21日から福島第一原発から20キロ以遠についてもモニタリングし、その結果を「福島第一原子力発電所の20Km以遠のモニタリング結果について」としてプレス発表しはじめた。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/03/1303998.htm

 3月22日には、米国エネルギー省が、放射線モニタリング・データを発表した。これは、横田基地から飛ばした無人探査機(おそらくグローバルホーク)によって採取されたデータである。このとき、原子炉周辺の鮮明な写真を多く撮影し、公開も許可の上で日本政府に提供したが、政府はこれを公開しなかった。

http://energy.gov/news/10194.htm

 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が、その名称とは裏腹に、試算を初めてプレス発表したのは3月23日であった。解説するまでもなく、この「予測」は十分に20キロ圏以遠の危険性を示唆している(なお、SPEEDIは、東京電力からの「放出源情報」を欠いているため、影響予測の最も重要な機能を果たしていないが、政府は東京電力に放出源情報を提出するように「文書で」要請したことは一度もないようだ)。

http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf

 3月25日に、IAEA(国際原子力機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同調査チーム3人が食料汚染の調査のために来日した。その調査の際、福島県飯舘村で検出された放射線が、IAEAの避難基準を超えており、日本政府に避難の検討を勧告したことがあった(4月30日)。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=38904

 ほかにも、証拠はいくつもあるが、この時期に政府が何を検討していたかといえば、住民をどうやって救うかではなく、いかに避難区域を拡大せずにやり過ごすかということであった。折しも、原発事故の賠償が問題になり始めた時期である。
 飯舘村に関しても、福島第一原発から約40キロの距離であることが影響していると思われるが、原子力安全委員会は「日本の方が総合的に判断しており、問題ない」とした。総合的…の内容の吟味は、1.土を5センチまで掘り、混ぜ返して測定する、2.空気中の放射線量の割合、3.空気中のほこりや飲食物に含まれる放射性物質濃度などということらしいが…、こういう測定方法は聞いたことがなく、日本以外では通用しないのではないか。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110401-OYT1T00786.htm

 枝野官房長官は、記者会見で「直ちにそういった(避難地域を拡大する)性質のものではない」と述べ、IAEAの避難勧告に否定的な見解を示した。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110331-OYT1T00556.htm

 3月31日、原子力安全・保安院も、「避難の必要性はなく、落ち着いて考えていただいて大丈夫だ」との見解を表明している。避難を考えるのは、落ち着きのない行動であるらしい。いずれにしても、組織的に「火を消す」のに躍起であることはわかる。「避難区域」外は「安全」でなくてはならない…。

http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381949EE1E3E290EA8DE1E3E2E1E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2

 その後、4月6日、飯舘村は独自措置で乳幼児・妊産婦を村外に避難させることを決めた。原発の水蒸気爆発事故から3週間以上も後のことである。

 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 こうした経過をたどってみれば、今回の「年間20ミリ・シーベルト」という線量限度についても、一方で内部的な検討を進めながら、他方でその発表の機会を窺っていたであろうと推測される。ことの発端である4月4日の文科省発表の積算値は「3月23日から4月3日」のもので、最も多くの放射線が降り注いだ時期(現在までのところ、ではあるが)を含んでいない。むろん、モニターの設置時期の問題ではあろうが、積極的に上記の事実に言及し注意を喚起しないことには、作為的(不作為的?)なものを感じる。
 ともあれ、政府にとっては、「20ミリ・シーベルト」が定着するまでが正念場である。これが定着すれば、実態に合わない「距離による線引き」を棚上げにできる。あとは「累積線量が高まってきたので…」と個別に対応することになるだろう。距離に基づく避難区域の拡大よりははるかに安上がりであり、「仕分け人」の面目躍如といったところである。

posted by あるじ at 07:57| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。